革のなめし(鞣し)製法で“ベジタブルタンニンなめし製法”と“クロムなめし製法”というのがあります。
それぞれに特性があり、メリット、デメリットなどもありますが、はたしてどちらの「革なめし製法」が優れているのかを見ていきます。
“ベジタブルタンニンなめし”と“クロムなめし”の革、どちらに軍配が上がるか?
革の素材の性質上では、それぞれに個性があり、特徴があるためどちらが優れていると言えませんが、環境的側面においては“ベジタブルタンニンなめし”の方に軍配が上がるでしょう。
なぜならば、“ベジタブルタンニンなめし製法”では“クロムなめし製法”の時に使う薬剤を使わないからです。
原始的な方法で効率化を度外視し、まずは環境にやさしい製品づくりに視点を置く考え方がすばらしいです。
イタリアなどでは革生産におけるしっかりとしたマニュフェスト(産業廃棄物管理票)まで作って環境に配慮しています。
また価値的にも少数派である“ベジタブルタンニンなめし”革の方が高いことは確かです。
また、個人的には“ベジタブルタンニンなめし製法”で作られた革の方が好きです。
最近は特に魅了されてしまっています。
鞣し(なめし)とは?
動物の皮はそのまま放置すると、固くなったり腐敗してしまうため、これらを防ぐために皮をやわらかくしたり腐敗しないように長期的に使用できるように加工します。
この加工の事を鞣し(なめし)といいます。
紀元前 600 年ごろ既に地中海沿岸で行われていたと言われています。
また、樹皮や葉等で組み立てられた家の傍で死んだ動物の皮が腐らずに残ったことから、
そのなめし効果が発見されたとも記述されています。
紀元前の壁画、エジプト・テーベンの古墳中で発見された壁画にはなめしの技術がかなり普及していたことを物語っています。
動物皮の繊維を噛み砕いて柔軟にしている写真もよく紹介されています。さらに、わらや雑木等の煙で皮を燻したりして腐敗しないようにしていたことなども分かっています。
日本でも古来から伝わるなめし方法に、なたね油を用いてなめす“白なめし革”や脳しょうなめし革などがあります。
いずれにしても、人間は生きるために、皮を必要としてきたのですね。
“ベジタブルタンニンなめし製法”とは?
植物の皮や幹、葉や実などを粉砕して皮と共に浸してなめす製法の事を“ベジタブルタンニンなめし製法”と呼びます。
他には“植物タンニンなめし”とかイタリアで有名な“バケッタ製法”“ピット製法”とも呼ばれます。
イタリアでは昔からこの製法で皮をなめしていますが、それが世界で一番有名なレザー
「イタリアンレザー」になります。
また日本でも栃木レザーがこの製法で革を生産していますね。
植物のケブラチョやミモザ、チェスナットなどのタンニン(渋み)と動物性脂肪の溶け合った液と革を投入し、じっくりとなめす事により革にそのエキスをたっぷりと含ませていく製法です。
30以上の作業工程を踏むこの製法は非常に手間がかかりますが、仕上がりに2,3か月の期間を要します。
革によっては、一年もの期間を要るものもあるといいます。
“ベジタブルタンニンなめし製法”のメリット
ベジタブルタンニンなめし製法のメリットは下記のようなものです。
●皮に薬品を使用しないので、皮自体を痛めずに自然な風合いを革に残すことができる。
●タンニン鞣し特有の手に吸い付くようなしっとり感があり、まさに「ザ・革」を楽しめる。
●使っていくうちに変化するエイジング(経年変化)がすばらしい。
●薬品を使用しないため環境にやさしく、安心して使える。
●植物タンニンの香りが好きな人にとってはたまらない。
“ベジタブルタンニンなめし製法”のデメリット
ベジタブルタンニンなめし製法のデメリットは下記のようなものです。
●水や湿気に弱い
●革の変化が嫌いな人にとっては、エイジングが速い。
●革表面加工をしていないから、革があまり薄いと、伸びてしまう恐れがある。
●生産に時間がかかるため、革が高額である。
それでは次にクロムなめしの製法について詳しく見ていきます。
“クロムなめし製法”とは?
クロムは「塩基性硫酸クロム」と呼ばれる化学薬品でなめす製法を“クロムなめし製法”と呼びます。
このクロムなめしは100年程前にドイツで開発されました。
時間と手間がかからないので、現在流通しているほとんど(90%)の革製品がクロムなめしを行っています。
日本でも戦後の高度経済成長期に多くのタンナーがクロムなめしに切り替えたと言われています。
なぜなら、加工がしやすく安価で短時間で大量に作る事ができ、効率が良くコストダウンにもつながるからです。なんと一日で仕上げる方法もあるといいます。
“ベジタブルタンニンなめし製法”と比べると格段に効率がいい製法ですね。
“クロムなめし製法” のメリット
クロムなめし製法のメリットは下記のようなものです。
●革の表面塗装をすることで色合いをはっきりさせる革加工ができる。
●変化をさせたくない革、例えば型押し革やプレスレザーなどに適している。
●表面塗装で薄くて丈夫な革を作ることができ、耐熱性や弾力性にも優れている。
●薬品や塗装の効果で防水性を高められる。
●薬品で様々な革表面を加工したものが可能、例えばシワをたくさん出すシュリンクレザーなどはこの製法で作られる。
●革そのものが軽い。
“クロムなめし製法”のデメリット
クロムなめし製法のデメリットは下記のようなものです。
●化学薬品クロムは金属性のため、人によってはアレルギー反応がでることがある。
●タンニン鞣しに比べてエイジング(経年変化)があまりないこと。
●薬品をなめし剤に使うため、環境に良くない。
まとめ
それぞれにメリット、デメリットがありますが、両者共に言えることは、どちらの製法でも丈夫な革に仕上がるということですね。
革を生産する効率でいうならば、圧倒的に“クロムなめし製法”の方が効率的で生産的で現代的であります。
技術の向上により、様々な革の加工技術も発達していきますが、その真逆を行く“ベジタブルタンニンなめし製法”はとても魅力的でもあります。
少数派である“ベジタブルタンニンなめし製法”の方が革は高額ですが、圧倒的なこだわりがあり、環境に配備した(イタリアなどはマニュフェストを作っている)革づくりを実践しているなど、しっかりと未来を見据えていますね。
これからの時代は、世界中のタンナーはみんな“ベジタブルタンニンなめし製法”に準じていくかもしれません。